日々のモノローグ

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【映画感想】岸部露伴は動かない 懺悔室

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2025/5/23公開。
2025/5/25鑑賞。
面白かった。70/100点くらい。

 

原作の「岸辺露伴は動かない 懺悔室」は岸辺露伴シリーズの1作目で、当時はシリーズ化の予定は無かったと思われる。懺悔室でずっと話を聞いているだけだから、岸辺露伴は動かない。ということ。
でも映画ではとてもよく動くヴェネツィアを歩き回る。
高橋一生がもはや露伴ご本人様と化しているので、それだけでも絵になるのが素晴らしい。(岸辺露伴があちこち旅する旅行番組とかやると割と面白そう)

>原作との違い
映画は原作準拠+オリジナルの独自展開。露伴が懺悔室で耳にする、ある男の懺悔(ポップコーン投げ&キャッチとその顛末の告白まで)が前半でここは原作とほぼ同じ。後半はそこからの続きが展開されるオリジナルとなっている。

原作では、一度は浮浪者の怨霊による復讐をやり過ごした男は、そのために犠牲にした使用人の怨霊も新たに引き連れて、呪われた日々を生き続けるというところでおしまい。露伴は呪いを背負っても生き続ける男の姿に、「こう思うのは自分だけかもしれないが、尊敬の念を持つ」と独白する。映画の前半部分は後半への仕込みを除いて、筋書きはほとんど変わらない。(この露伴の独白は、映画の最後まで引っ張る形になっている。)

>オリジナル展開
後半は、懺悔が終わったその続きが展開する。要は、原作では男は呪いを背負い続けるオチだが、その時に「こいつの娘が幸せの絶頂の時に、改めて復讐しにくるぞ」と言っているので、そこを広げた感じ。

男は、自分と同様に娘にも「幸せが襲ってくる」ことを察し、あの手この手で幸せを遠ざけようとする。不完全にしようとする。幼い頃から縁起が悪いアイテムとして割れた鏡や、黒猫の人形を持たせたりしていてかなり偏執的になっている。いつしか男は、娘が幸せになると自分が怨霊に殺されると思い込んでいるからですね。
それでも、結婚して幸せを掴もうとする娘に対して、花婿の殺害という手段まで取ろうとする。実際呪われているからあれだけど、だいぶ病んでいる。
で、実のところ「最大の絶望」とは自分の死ではなく、「愛するものの死」ということで、花婿を狙った銃弾は花嫁である娘を襲うことになってしまう、という話。

そこを(原作とは違って)よく動く露伴が介入していて、結果的に娘の命は助かり、娘への呪いは解ける。しかし男への呪いは続いていく…。で、原作にもある露伴の独白で終わり。

>気になったこととか。
露伴を動かさずに話をまとめていた原作って凄かったと再確認。
・実写の役者さんたちは、特に浮浪者の戸次氏と、呪われる男の大東氏が素晴らしかった。ポップコーンのところとか、実写で成立させるには相当の役者パワーが必要だと思う。よく考えずとも相当シュールなんで。
・オリジナル展開も、ロケーションも相まって悪くはなかった。
・巻き込まれて、漫画の増刷とか余計な幸運が舞い込んでキレる露伴は解釈一致。確かにあれはキレそう。
・ちょっとだけ気になったのは、あれだと男がまた娘に再会したら、娘にもまた呪いや危害が及ぶのでは?という点。(娘への幸運の呪いが解けているのは、指輪をはめる時に落としてしまう描写で示唆していると思うが、男への呪いも生きているなら、まだどうなるかわからないのでは)
・おそらく本当の呪いは、男が娘への愛を失ってしまっていること。というオチなのかと。1度目に呪いが降りかかったときは、娘の存在に最高の幸せを感じていた。しかし、その後では自分の命が大事になり、娘の幸福が最大になることを避け続けてしまうという皮肉さがキモかと思います。実際、狂言で娘が撃たれた時に、男はうわ言のように「助かった…」と呟いて去っていくところからも、それが窺えます。

幸せってなんでしょうね。確かに、幸せを得ると失うことを恐れてしまう。
休日は嬉しいけど、始まった瞬間にはもう終わりを想像してしまって、仕事を思い出して辛くなる的な。(違うか) でも、じゃあ休みはなければ良いのかというとそうでもない。
大きな喜びもないが、大きな不幸もない生活が良いかも。吉良吉影みたいになるけど。